kazemachi blog

ロック聴きのひとりごと

スライダーズの頃(2006年)

そのころの自分は、ライブって、あんまり好きじゃなかった。
で、どうしてもライブに行きたい、って初めて思ったライブが、ストリート・スライダーズの武道館。
スライダーズ、っていうのは、
80年代の日本のロックバンドの一つのスタイルを強烈に残した、最初で最後のロックンロール・バンド。

ハリーと蘭丸、ジェームズとズズの4人で、
ロックンロールとブルースをミックスして、
そこにイメージをどこまでもふくらませた歌詞を散りばめ、

それでいてポップで、

だるくて、重くて、でもやたら腰に響いて、すうっと軽くなってくる、
めちゃくちゃ美しくて、どこまでも広がっていく、
あんなバンドは絶対に出ない、っていうバンド。

 

そのころは20才ちょっと過ぎたぐらいで、
まあ全てにおいて自信が無かった頃で、
何かのきっかけで、「エンジェル・ダスター」を聴いて、
だるくて、重くて、でもやたら腰に響いて、すうっと軽くなってくる、
スライダーズの音を、昼も夜も聴きまくってた頃。
スライダーズだったら、ライブ見てえよ、って思って、
でもスライダーズなんか、一緒に行く奴なんかその頃はいなくて、
というか、行くなら一人で行きたくて、初めて武道館に行った。
スライダーズのライブは、始まる何時間も前から、

髪をつんつんに立てて、どハデの、でもセンスのいい服を着た、
たくさんの「ハリー」や「蘭丸」がすわってじっと静かに待っていて。
実はかなり怖かったりするんだけど・・・。

会場に入ると、中にもやっぱりハリーや蘭丸がいっぱいいて。
で、開演を過ぎても、なかなかみんな入ってこないという・・・。
スライダーズは、なかなか出てこないんだ、ってことを、
みんな知ってるんだよね。

待ちくたびれるくらい待って、
やっと現れた4人が、あのリズムを鳴らし始めると、
初めて「エンジェル・ダスター」を聴いたときの、
だるくて、重くて、でもやたら腰に響いて、すうっと軽くなってくる、

あの独特のリズムが目の前でいくつもの世界を広げていって、
それをいつも欲しがっている自分みたいなたくさんの奴がそこに居て、
あーもう何もいらないって思える、トリップする感じが、
武道館いっぱいに広がっていって・・・。

なかなか始まらないくせに、
あっという間にスライダーズのライブは終わってしまい、
なんだかポカンとしてしまったけど、
でもやっぱり身体の中ではあのリズムがずっと続いていて、
満足したような、さびしいような、うらやましいような、
いろんな気持ちが残っていた。
そしてそれから、武道館でスライダーズを観るのは、
自分の中のきまりごとになった。


それから十年以上経って、
仕事が忙しくてあんまり音楽も聴かなくなってしまって、
スライダーズ解散!という記事にショックを受けながらも、
どうすることもできずにいたとき、
友達がTELしてくれて、
スライダーズのラスト・ライブのチケットが手に入った。
たった一度だけの、それも日曜の夕方、まだ早い時間に、
社会人のオレらのために、っていう彼らの思いがやたらと感じられる、
それだけでなんだかもう、どうしようもなくなってくる、
一日だけの、ラスト・ライブ。

久しぶりに彼らの音を聴いて驚いたのは、

だるくて、重くて、でもやたら腰に響いて、すうっと軽くなってくる、
あの感じが何も変わっていなかったってこと。
そして、こんな音を出すバンドは、やっぱりどこにもいねえよ、
って感じさせたこと。
解散ライブって言いながら、彼らの音は一つも色あせてなんかないんだ、ってことに
うれしいのと切ないのとが混ぜこぜになって、やったら熱くなってしまった。
いつもは短い彼らのライブとは違って、
とにかく代表曲を次から次へと演奏していく、
いつも通りMCもなく淡々と演奏していながら、
でもステージからは確かに特別な思いが伝わってきて、
もうすぐ終わってしまうって思うときゅーっと痛くなってきて、
自分にとってスライダーズの音は、やっぱり特別だったんだ、って思った。

「エンジェル・ダスター」も、「Boys Jump the Midnight」も、
「So Heavy」も、次々に始まって、そして終わって、
最後のアンコールはやっぱり、「のら犬にさえなれない」。

 

素晴らしい出来事を経験した、ってことは、
よく言われる以上に、その人にとって大きいことだと思う。
それが、その人にとっての誇りだったりすることもある。
で、そういうのがたくさんある人の話を聴いたりすると、
何だかとてもうらやましくなってしまう。

不思議なもので、
自分がストリート・スライダーズを聴いて、ライブに行ってた、
ってことが、年をとるほど誇りに思えてくる。

あきっぽい自分は、熱心なスライダーズ・ファンと比べたら
全っ然落ちこぼれのほうだと思うけど、
スライダーズを聴いてたってことが、単なる思い出なんかじゃなくて、
今の自分に確実に繋がっているような、そんな気がする。
そして自分にとって初めての「解散ライブ」がスライダーズだったことが、
すごく特別なことのように今でも思えてくる。

 

そして、もう一つのジマンは、
ハリーと誕生日が同じってこと。
実は、これはかなりうれしいんだ。