kazemachi blog

ロック聴きのひとりごと

とんでもない歌が鳴り響く

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 部屋で、街の中で、車で、不意に流れてきた一曲にぶちのめされて衝撃を感じる瞬間がある。音楽を聴いていて幸せを感じるのはそんな時だ。好きなアーティストの作品を隅から隅まで丁寧に掘り出して聴くのも楽しいけれど、たった3分間で、その音の持つエネルギー、破壊力に取り憑かれて忘れられなくなる瞬間がやめられない。ロックミュージックは、そういう力を持っている音楽だと思っているし、チバユウスケという唯一無二のロックンローラーから、僕はそんな瞬間をたくさんもらってきた。


 チバユウスケの音楽に惹かれたのは、ロックンロールの可能性を体現したいという強い意志が伝わってくるライブでのカッコ良さだと思う。彼が在籍したバンド、THEE MICHELLE GUN ELLEPHANT、ROSSO、The Birthdayでのパフォーマンスを動画で見て興奮し、実際に見たミッシェルやThe Birthdayのライブでは圧倒的なグルーヴを肌で感じた。しかし、もう一つの理由は、バンドやソロ活動において、驚くほどにハイペースで作品を作り続けてきたということ、そしてそうした作品たちが、僕の心の中に、多くの世界を、風景を、そして強い思いを残してくれたことだった。


 ミッシェルを本格的に聴き始めたのは、アルバム「カサノバ・スネイク」から。すでにバンドとしての人気が確立していた頃だ。次に出るアルバムを待ち、さかのぼって過去の曲を聴いた。僕にとってのミッシェルの音は、チバの叫びに反応するように、重量感とスピードがどんどん増していくバンドの音が生み出すグルーヴだ。それは絶対に揺るがない「本物」としか言いようのない音であり、同時にその歌詞の、映画のワンシーンのような、そして「世界の終わり」や「ドロップ」のような、深い想像力をかき立ててくれる世界に惹かれた。伝説と呼ばれるようになった、テレビで急遽演奏した「ミッドナイト・クラクション・ベイビー」での凄まじいグルーヴに、めちゃくちゃ興奮した。彼らのライブが、テレビでも何かを起こせるって思えたからだ。
 そしてその後の解散発表。初めて体験する彼らのライブが最後のライブになり、その音を深く感じたくて前方でもみくちゃになりながら、息もできなくなるほど全身で感じた爆音が、僕にとってのミッシェルのライブだった。


 胸の中で特別に刻み込まれている曲がある。それが、後期のミッシェルの活動と並行して始まった、多くのファンに名曲と呼ばれているROSSOのファーストシングル、「シャロン」だ。
 ミッシェルが、重量感とスピードでロールしていくような音だとすると、「シャロン」は、何かに向けて一点を突き抜けて行くような音だ。こんなにも激しくストレートな曲が、こんなにも多くの思いをまき散らし、胸いっぱいの切なさを感じさせるってことが、自分にとっては初めての経験だった。この音が向かっている一点は、誰もがどこかで必ず胸に抱えている大切な場所のように思えた。


 冬の星に生まれたら
 シャロンみたいになれたかな
 時々 思うよ 時々
 ねえ シャロン 月から抜け出す
 透明な温度だけ
 欲しいよ それだけ それだけ シャロン


何なんだろう、この歌詞。
憧れと、絶望をこんなふうに歌って、そして、
こんなに綺麗なロックンロールが作れるんだ。
その時思ったのは、そんな感覚だった。


 ROSSOの活動を終え、The Birthdayを結成して、そして新たにソロ活動を始めても、1年あるいは2年のペースで新しい作品が生み出され、多くのライブ定番曲が生まれていった。
 これだけの実績を得て、さらに新たな作品を作り続けるってのは、たぶん大変なプレッシャーだし、本当にストイックでなければできないことだと思う。僕はアルバム「I'm Just A Dog」をよく聴いた。ギターがフジイケンジに変わった新体制でのこのアルバムは、もう一度、ロックンロールの楽しさと切なさをいっぱいにふくらませてくれるアルバムで、ここからまだまだ転がっていけると思える音だった。
 アルバム「COME TOGHTHER」に収録されている「くそったれの世界」は、こんなふうに始まる。

 とんでもない歌が
 鳴り響く予感がする
 そんな朝が来て俺

チバがこれまで作品を作り続けてきた思いって、まさにこんな感じなんじゃないか、と思えるほどストレートな叫びからこの曲は始まる。どこからか流れてきた曲が、一発で世界をひっくり返すくらいの衝撃を与える瞬間。こんな曲が聞けるんだったら今すぐ死んでもいいと思えるような瞬間。チバはいつもそんな瞬間を思い描いて作品を作っていたんじゃないか、と思えた。この曲は「シャロン」と同じ、冬の曲だ。そしてこんなフレーズで終わる。あまりに純粋としか言いようのない思いが伝わってきて、何度聴いても、身体が熱くなる。

 世界中に叫べよ
 I LOVE YOU は最強
 愛し合う姿はキレイ

 お前のその
 くそったれの世界
 俺はどうしようもなく
 愛おしい

 この4月にリリースされた、既に録音を終えていた3曲をメンバーが完成させた「April」を聴いて、チバは最後まで新しいチャレンジを続けていたことを感じた。2021年リリースのフルアルバム「サンバースト」、2022年リリースの4曲入りシングル「月夜の残響 ep.」、ソロアルバム「SINGS」にはどれも、よりパワフルな、ストレートな、そしてロマンティックな名曲たちがあふれている。そう、チバは僕らにとんでもないほど最高なものを残してくれたんだ。
 音楽で現実をひっくり返せると感じさせてくれた、世界中に鳴り響くロックンロールを。そして、この世界には、こんなにも綺麗なものが存在するということを気付かせてくれた純粋なロックンロールを。


 もう一つ。このくそったれな世界とともに、僕はまだまだ転がっていこう、と思えるロックンロールを。


 チバユウスケに、心からの感謝を込めて。